人は常に欠けている(2)

人は常に欠けている(2)

久しぶりに会った友人は待ち合わせ場所のホテルのラウンジカフェで先に到着していた。
友人が定刻より先に来ているのは初めてのことだった。
そして、やっぱりいつもの笑顔だけれども何か不自然さがあった。
友人の笑顔に違和感があったのは、顔に独特のツッパリ感があったせいだった。
さらに雰囲気にも違和感があったのは、私が知っているキメキメのスーツ姿の友人ではなく、
淡い色のロングワンピースの姿だったこと。
そして何よりも全体的に華奢になっており、座っている姿勢にもズレ感があった。
何よりも手元横の椅子のそばにはプリザーブドフラワーが閉じ込められたオシャレな杖があることだった。

「驚かせたよね。」

「そうだね。でも、会えたことがうれしいよ。」

「あなたならそう言ってくれると思った。
 その通り、やっぱり今の私を受けいれてくれたよね。」

「いや、受けいれてくれたって、そりゃ普通にそうなるでしょ。
 生きててくれてうれしいし、何よりも会いたいと思ってくれたことがうれしいよ。」

「相変わらずだよね。
 あなたの普通は、いつも普通じゃないことを自覚しなさいよ(笑)」

違和感があったけれども、努めて平静平常を保ったつもりではいた。
けれど、きっと友人はそういう平静平常を求めていたわけではなかったらしい。
少し斜に構えたような笑みの浮かべ方は多少のツッパリ感があっても変わらない。
そう、友人はなにひとつ変わってはいなかった。
美人なのだ。この嫌味っぽくもある微笑みがたまらなく美人だ。
たわいもない話の中でも、友人のしゃべり方や話題の持っていきかたなどは、事故にあう以前のままだ。
そしてどのくらいの時間をそこで過ごしただろうか、飲み物やスイーツを入れ替え食べては飲んでを繰り返して、
気づけばとっぷりと日が暮れるくらいにはなっていた。

「事故にあった直後は時間の感覚もわからなくて、
 自分が何か、誰かなのかもわからなくて、 でも少しずつわかるようになって、
 リハビリが始まって、ひたすら毎日リハビリしたの。
 それで気づいたら今日この日よ!
 やっと会えたと思ったら、ちゃんとあなた老けてんだもの(笑)
 年齢がさっぱりわからないと思ってたあなたが老けてて、
 あなたが人間だということをやっと知れたわ(笑)」

ケタケタ笑う友人がたまらなく愛しい。
そう、こういうことをサクッと笑いながら言える友人なのだ。
そこからまた小一時間ほどしゃべった頃、友人は少し疲労が見え背中をゆっくりと背もたれた。

「今日はこのくらいにしておこうよ。
 また会って話そう。
 もっと話したいけど、また会えるでしょ?」

「ん~、そうね。あきらめも肝心よね。
 実は、明日から日本を離れるのよ。
 今度帰ってくるのはいつになるかわからないから、
 ちゃんと会っておきたかったの。」

(続く)

雑記カテゴリの最新記事